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【中国フィンテックセミナーレポート】デジタル化急ピッチ――スタートアップ、米国を凌ぐ勢い


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日本経済新聞社は東京・大手町で「中国フィンテックをまなぶ―テクノロジーが導くデジタル化社会」と題するセミナーを開催した。
いま、中国経済は世界最速のスピードでデジタル化社会に移行しつつある。スマートフォンを使ったキャッシュレス決済の急拡大に加え、大学発のスタートアップが金融・決済のイノベーションを加速させている。
清華大学経営管理学院のスティーブン・ホワイト副教授は「アジアのユニコーン(10億ドル以上の価値を持つ未上場企業)の80%は中国で生まれており、フィンテックでは米シリコンバレーに肩を並べつつある」と語った。

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清華大学の起業支援、大手企業も参画
――清華大学経営管理学院 副教授 スティーブン・ホワイト氏


中国では「大衆による起業・イノベーション」が中央政府や地方政府、国営企業、そして大学の大きなテーマになっている。経済成長や豊かな社会の実現には、イノベーションやスタートアップ支援が必要という認識が広がっており、すでにその成果もはっきりと出始めている。(最近6年間に)北京と上海では45社のユニコーンが誕生しており、これはシリコンバレーの53社とほぼ同じレベルだ。

なぜ中国でフィンテックがこれほど拡大したのか。もともと金融インフラがあまり発達しておらず、消費者の金融決済のニーズが非常に強かったことがその理由に挙げられる。アリババ集団などが運営するeコマースが急速に普及したことで(電子決済の)利用の幅が広がったことや、2015年までは中国政府の規制が緩かったこともその背景にある。

中国のフィンテックは利用者の数が非常に多く、サービス内容も豊富だ。中国人はスマートフォンさえあれば、銀行に行く必要はないし、公共料金の支払いや映画チケットの購入などもその場でできる。私自身、この1年間で現金を使ったのは郵便局に行った時だけだ。

中国のデジタル化社会はそのエコシステムに特徴がある。(相互依存のビジネスモデルは)米国とも日本とも厚みが違う。例えば、FANGと呼ばれる米国大手4社のベンチャー投資は全体の5%だが、中国のBAT3社の投資額は42%を占める。さまざまな分野のサービスにこれら大手企業が関わっている。

清華大学は学生らのスタートアップを育成するプラットフォームであり、中国大手企業がその技術研究に参画することで、ひとつのエコシステムを構築している。フィンテックの分野では保険会社に技術を提供したり、中間所得者層の資産管理を担ったりするチームが登場している。大学で技術を開発して、これをビジネスに応用し、新しい企業を作り出すという巨大な流れが生まれている。

これまでの中国経済は低価格の製品を大量生産することで成長してきたが、今後はAI(人工知能)やビッグデータ、ブロックチェーンなどの技術開発が成長を支えていくだろう。これからの中国は今までとはまったく違う経済パワーになると考えている。

中国、テクノロジーの『オープン化』で先行
――野村総合研究所 上級コンサルタント 李 智慧氏


中国フィンテックにはいくつかの特徴がある。まずは利用者の数で世界トップクラスにあるということだ。騰訊控股(テンセント)の決済サービス「ウィーチャットペイ」の利用者は8億人弱、アリババ集団の「アリペイ」の利用者はインドを含めて8.7億人といわれている。巨大市場にひかれて世界中から投資が集まっており、フィンテックへの投資件数をみると、中国向けは世界全体の58%と、米国の4倍にのぼる。

異業種からの金融への参入も特徴といえる。金融機関ではないアリババやテンセントなどがデータ収集などを狙って決済サービス事業に進出したのはその典型で、今や両社のシェアは中国モバイル決済市場の8割以上を占める。都市部の実店舗での決済は、モバイルが全体の65%を占めており、農村部でも47%に拡大している。

生活の隅々までフィンテックが浸透しており、日常生活と金融の融合が進んでいる。技術の応用で金融がより身近になっている面もある。

今の中国フィンテック企業は自らの技術を提供することでエコシステムを発展させる「オープン化」の戦略を採用している。例えば、テンセント系のネット銀行は(カメラに映った人物を特定する)顔認証技術を中国の地方銀行に提供している。さまざまなデジタル技術を外部に提供することで巨大なプラットフォームを作り上げ、そこから蓄積される膨大なデータでAIなどの技術を高めていく考えだ。本人認証や決済などの技術の外部提供が、中国におけるシェアリングエコノミーの台頭のきっかけにもなっている。

データテクノロジーの時代をにらんだ中国の動きは日本企業にとって参考になる点が多い。ボーダーレス化やオープン化という発想では中国はかなり先行している。事業計画を入念に作ってから着手するのではなく、意思決定を迅速にし、試行錯誤を許容する企業風土も必要になるだろう。

伝統的な金融機関や企業にとって時代は大きく変わっている。これまでの「サービスを提供する側の発想」をやめ、「個々の利用者のニーズにあわせたサービス」を展開するようにしなければならない。

インバウンドで日本企業と提携加速
――アント フィナンシャル ジャパン 代表執行役員COO 田中 豊人氏


アリババ集団のコアビジネスはeコマースであり、何かを売りたい人と何かを探している人をマッチングさせるプラットフォームだ。そこから中国人の日常生活のあらゆる分野に進出し、今ではスーパーやコンビニエンスストアを展開したり、旅行サイトを運営したりしている。(アリババ集団グループの金融会社である)アント フィナンシャルが手がける決済サービスの「アリペイ」はこれらを支えるためのインフラといえる。

中国のモバイル決済は2013年にはすべての決済に占める割合が10%以下だったが、すでに60%を超える水準に達している。これほど急速に拡大したのはキャッシュレス化という顧客の利便性に応えたことに加え、加盟店の導入コストを低く抑えた要因が大きい。屋台でもQRコードさえ配置すれば、スマートフォンでの支払いを受けられる手軽さや垣根の低さが急速な普及のポイントだと思う。

アント フィナンシャルが重視しているのは(決済サービス利用者の)規模だけではなく、どこで誰が何を買ったのかというデータであり、これがビジネスの強みとなっている。例えば、日本の札幌市にいる中国人観光客にその周辺の観光地やレストランの情報を伝えることもできるし、決済情報から特定の顧客にターゲットを絞り込んで買い物で使えるクーポンを送ることもできる。

中国では年間1億3000万人が海外旅行に出かけており、この数はさらに増えるだろう。日本とタイが人気トップの渡航先であり、アント フィナンシャル ジャパンとしてはモバイル決済しか使ったことがない中国人が日本で自由にアリペイを使ってショッピングを楽しめるようにしたい。数カ月前からはインバウンド・ビジネスに携わっている日本企業との提携を積極的に始めている。単なる決済サービスではなく、アリババグループのテクノロジーを使って、中国人観光客と日本の事業者を結びつけていきたい。

■セミナー当日の映像はこちらでご覧いただけます。



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